昼休み。休憩室で。まだ女の子の数はまばら。わたしの前にはかわいい女の子。この子名前は。わたしの店の大切なスタッフ。いつも笑顔を絶やさない従順な子。子供のような無邪気さがウリの。栗色の巻き毛がよく似合う。かわいい。だけど、男の趣味は、最低な子。 と早坂幸宜がいつから付き合っているのかは知らないが、2週間前、街で偶然出くわした時に事実を知った。その時は特になんの問題もなかった。だけど、今のわたしは全力でと早坂幸宜の関係を終わらせたくてたまらないのである。わたしは、おせっかいなことはしたくない人間で、特に恋人同士、当人同士の問題には絶対に関わりたくなく、本人達が楽しければそれでいいと思うような種類であるはずなのに。恋人同士というのは、他人の介入をまったく許さない。わたしがいくらと早坂幸宜に忠告しても、無駄。だけど、それにしたって、そんなわたしの心を揺るがすぐらいに、を早坂幸宜に預けておくのは危険すぎるのである。 と早坂幸宜は、完璧な主従関係だった。早坂幸宜の気まぐれやわがままを、がすべて笑顔で受け入れているようだった。今日のには、昨日なかったはずの小さな痣があった。どうしたの、それ。と訪ねても、ぶつけたとしか言わない。嘘が下手な子ね、頬骨の上なんて、殴られでもしなきゃそんな痣できないわ。痣を少し厚い化粧で誤魔化している。「きれいに隠れましたぁ」と、舌足らずな喋り方でわたしを振り返る。ああ。なんてかわいそうな―――――。 「どうして幸宜と付き合っているの」。なんて聞いたところで、は「好きだから」としか答えないだろう。「幸宜のどこがいいの」なんて聞いたところでも、は「すべて好きよ」とあのやさしい笑顔で答えるのだ。巻き毛を揺らして、「オーナーったらぁ、変な事聞かないでくださいよぅ」と、ほんの少し眉を下げて。 恋のひとつやふたつ、してみなさいと常々に告げていたのは自分だ。しかし、よりにもよってが早坂幸宜に恋をするなんて思わなかった。よりにもよって、あんな奴に。早坂幸宜なんかに。きっとはこれからも気が付かない。第三者にならないとわからないことがその恋にはたくさんあることに。早坂幸宜のわがままも、気まぐれも、怒りも、すべて総てを受け入れていくのだろう。というのはそういう女の子だ。早坂幸宜の本当の心に気が付くわけもなく、たとえどんなに酷い目に遭わされていても、彼女はそれを愛と思い、尽くし続けていくのだろう。を止めたいのに、わたしの言葉は届いてはくれない。他人の介入はまったく許されない。胸が痛い。なんてかわいそうなの、。あんたって。あんたには泣いたりしないで、ずっと笑っていてほしいのよ、わたし。、かわいい。わたしの店のかわいい。脆くてかよわいあんたの事だから、心に負う傷にたえられない。そんな小さな痣なんかよりも、もっと深くて不快な傷に。これ以上あの早坂幸宜に、早坂という名字の男に関わっていたら、だめよ。だめよ。早坂幸宜、をふるのなら早くふりなさい。だけどその時は最後まで、今の嘘を貫き通してよ。おねがいだから、にあなたたちの真実を伝えないであげて。わたしのようにはさせないで。あなたの兄が、わたしにしたようには、絶対。 (トラブルは尽きないけどわたしたちは恋をして生きる動物。、それともあんたは、その傷さえも、受け入れてしまえるというのだろうか。) |