人間の感情って安易に移り変わるわりには、難しい。本人じゃないと分からない事を必死で考えてみても仕方ないのに、考えずにはいられない。そうして自分の中で納得の出来る結論を作り出して自分勝手に安心する。相手を誤解したままだとしても自分さえ納得出来ていればそれでいい、そんな思いがみんなどこかしこにそれぞれあるんだろう。 いつだって生き物っていうのは、 総じて身勝手なんだ。 深夜のファミレス。呼び出された相手は。大事な友達。桂木弥子のつながりだけど、同世代の友達が出来るなんて俺にとっては物凄く奇跡的なことだと思った。だからはぶっちゃけてすっげー可愛い女の子だけど、変な目では見てない。ほんと、大事な友達。だから応じた呼び出し。なのに、なんだよこの状況。どういうことだよ、よりにもよっていつもつるんでる仲間内で、知らない間に泥沼恋愛って! っていうか聞けよ、。まだガキの俺に、恋愛相談なんかされたって、正直なところ困るんだよね。何を思って俺を相談相手にしてきたのか知らないけれど、今まで友達だと思ってた奴同士の恋愛模様なんて相談内容以前にヘビーでショックな事なんだ。だからお前が悩んでて辛いのはその表情だけでよぉく分かるけど、まだそこまで俺の頭が追い付いてないんだよ。なあ、そこんところわかってんの、君は。だいたいお前らいつからそんな仲良しになってたんだ。俺を差し置いて。おかしいだろ、普通に考えてついこの前までお互い「フリーな身分最高!今は独身を満喫したいの」なんて言ってたじゃないか!それが今俺の目の前で、俺以外の男に傷付けられた事が原因で、泣いたりしてるって、なんだ、なんだよこの状況。。お前さ。結構かわいいんだから。自分で自覚してないみたいだけど。俺、お前の事今だから思っちゃうけど、実は結構気に入ってたんだ。だけど俺にとっても、あいつも、やっと出来た知り合いっていうか、友達っていうか、友達がなんなのかよく分からないけれど、まあ、暇な時に遊ぶ相手っていうか、一緒に飯食う相手っていうか、とにかく、俺にとっては物凄く大切な存在なんだぜ。達は俺にとって、言葉では言い表せないほど大切にしたい関係者なんだぜ。ずっと欲しかったんだ。友達が欲しかったんだ。面白い、楽しい、そう思える関係が欲しかったんだ。それは年相応に青春・恋愛・女の子といちゃいちゃしたいなんて気持ちよりもずっとずっと崇高な事なんだぜ。俺にとってはそうだったんだぜ。だからこそ、もし、もしも、俺はに対して「気に入ってる」以上の気持ちを抱いてるんだって自覚してしまったらもうその瞬間からを「大好きな女友達」のままにしておけなくなってしまうと思った。それまで必死に守っていたものが崩れてしまうことが怖かったからだ。男女の泥臭い性愛なんか生まれて欲しくなかったんだ。そして達もそうであると、勝手に、心の中で信じていたんだ。俺ってやつは、ひどく情けない。そして身勝手だ。総じて人間みんな身勝手だ。 の変化も、あいつの変化も何も知らずに、ただバカやって笑いあっていられればいいと本気で思っていたんだ。結局、俺達はもうガキの付き合い方だけではやっていけない年齢になっていたんだ。泣くなよ、。そんなに沈んだ顔をするなよ。黒服の店員がテーブルの横をすり抜ける度に、胸が軋むようだ。頼むからこれ以上泥臭い中に俺を引きずり込まないでくれ。の空になったグラスの中で氷が溶けてゆく度に、俺だけがひとり、子供の姿のままで取り残されている気がして、自分が今どんな顔をしているのかさえ、わからなくなってきた。 「俺、お前達の事、応援するからさ。」 ああ、心にも無い事、無責任に言ってしまったけど、なんか、俺、今ひどく辛いみたい。ごめんな、。なんて謝ってみてもほんとは本心からのごめんじゃないんだ。バレてたらどうしよ。ああ、でももう、なんか俺、色々どうでもいいな。今は考えたくないや。俺、やっぱりなにかしたのかなぁ。過去のあの事を神様は許さないのかな。神がいるとは思えないけど。やっと手に入れたささやかな幸せも失ってしまうほど、悪い事したのかな。なんだ、もしかして、逆の発想をすれば、世界はいい子ほど簡単に幸せにはさせないのか。そんな、何か大いなる意志を感じます。なんつって。俺、相当キてるね。 俺が大切にしたかった事が、他人にとってはそうじゃなかった。ただ、それだけの事じゃないか。わかってる、わかってるよ。大丈夫。、ドリンクバーおかわりしようか。持ってきてやるから。何がいい? コーラか。いいよ、これ飲んだら帰ろう。まだ話したいと思うけど、明日も早いし、また今度、お前のためなら俺時間作るからさ。だって、そうだろ。俺達、友達だから。当たり前だろ。だからさ、これがどんなにわがままであっても、これがどんなにずるくても、誰も俺を慰めなかったとしても、むしろ逆に批判されたとしても、それでもいいから、申し訳ないけど、お願いだから、これからほんの少しだけ、俺を泣かせてくれないか。 頼むよ。 ■忌むことを躊躇う (2008/5/4 花村 21歳のバースデイにて) |