よく考えればおかしなことだけど、恋をするのに理由はいらないので結局なんというか、自業自得というか、腹の底から情けなくてうなだれて、凹む。そんでもっていろんなことに八つ当たりしてムカムカムカムカして、しょんぼりして泣いてわめいてまた落ち込んで立ち直れないわー!とジェリーロラムに泣きついている雌猫、それがこの愚かで可愛げのない、わたし、なんです。


I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.I‘m sorry, to you.


「彼の特別になるのは諦めたほうがいいわよ。そんな枠にはめたがらないタイプだもの。特別な存在にならなくたって、平等にやさしいわ、彼は」
「ち、が、う、よ、や、優しくなんか、されたこと、ないよ」

ずずずび、と鼻をすすって、ぶるぶる震える唇をおさえながら首を振った。だって優しくしてもらったことがないのはほんとに事実だった。いや、わ、わたしが気付いてないだけなのかもしれないしその可能性はないとは言いきれないな〜なわけだ、け、ど、も !

「会うたび無視ていうか、さ、避けられて」
「うそぉ、何かの間違いじゃないの」
「う、そ、じゃない!よ!絶対、すって!すっていなくなるんだ!」
「きっとその時だけたまたま何か用があったのよ」
「直後にミストにちょっかい出して雷落とされてたのに!?」
「じゃあきっとそれが用事よ」
「(マゾじゃん!)」

他の子が寄って行くと面倒そうではあるものの、機嫌が激しく悪くないとき以外はなんだかんだ会話ぐらいはしてるのに、わたしが、もうものすごく勇気出して、生唾27回ぐらい飲んで、神様に祈って、スーハースーハー深呼吸して、でも平然を装って「タガー、こんにちわ」って声をかけようとすると、すでにもう彼の姿はそこにない。
居てもこっちに見向きもしないでふらっと塀から飛び降りてしまったりして、もう、もうことごとく、わたしは避けられているのである。

そのたびに絶望の二文字がのしかかってきて、マンカストラップのカップケーキも美味しいと思えないしスキンブルの笑顔にも笑い返せないしコリコのいたずらにも怒る気力すらなくなるしカーバケッティのまじ面白くない駄洒落に突っ込むことすらしたくなくなる。
そうして、新しいことに挑戦するのがおそろしくて立ちすくんでしまうリストラサラリーマンように、受験に落ちたあと絶望して自殺をはかってしまう子のように、もうわたしの目の前にはなにも映らない。というか、映る努力もしないし、できない。
でも、それでもまたしばらく経って、どうしても胸の痛みがとれないときは、また勇気出して意を決して彼のそばにいこうとするのに、結局また回避されて、このローテーションをここ数ヶ月ぐるりぐるりと繰り返しているあたり、ほんとうに死にたくなるぐらいかなしい気分だった。今日だって、きっとわたしが手の届かないようなところでぐうすかのんびり鼻ちょうちんつくって寝てるんだろう。


「あなたタガーになにかしたの?」
「そんなわけない!だってまだ喋ってもないのに!」
「でも彼は天邪鬼だけど、理由もないのに人を嫌うような男じゃないと思うわ」
「そ、れは…」

避けられている本人に、その理由がわかるわけなどない。だから、余計に凹むのだ。聞きようもない。根本から避けられて、彼の交友対象というか、世界から除外されているようなわたしなのだから。

「何も嫌われるようなことしてないのに嫌われるということはあれです、か、わ、わたしの容姿がだめっていうか、ああ、き、きっともしかしてすごい好みじゃない以前の問題で汚らしいと思われてるんだと思うので、す、が、ど、どうでしょうジェリーロラム?」
「・・・はあ、そんなことないと思うけど」
「う、うう・・・」
「あなた綺麗じゃないけどブスじゃないわよ」
「(褒めてんのけなしてんの)」
「ねえ、元気出して」
「じゃ、じゃあすごい体臭すると…か…!」
「大丈夫、それはないわ」
「口からウンコの臭いするとか…!」
「あなた女の子なのになんてこと言うの!」
「う、うう…」
「もう、鬱陶しいわよう!」

うなだれながら唸っていたわたしに向かって、私たちだって我慢してるんだから、と、ジェリーは唐突に少し強く言った。

「しかたないじゃない、あのラムタムタガーは特定の子なんて絶対につくらないもの。賭けたっていいわよ。大体ね、私だって、誰だって、あの人に自分だけを振り向いてもらえるならぜひ神様にお願いしたいぐらいよ」

グサリ、と突き刺さるようなことを、今度は丁寧にやさしい口調で言ってくれた彼女もまた、彼のファンなんだ。忘れていた、とわたしは鼻の奥がツュンと軋むのを感じた。ジェリーロラムだけじゃない、ここにはタガーファンがいっぱいいるんだ。ボンバルリーナもディミータもタントミールもジェミマもランペルティーザも、彼はまるでアイドルのように愛されている。

(でも、わたしはそのファンとかいうのとは少し違くて、こんなこというと自分だけ特別みたいな言い方なのですごくいやらてくしイヤだけどアイドルファンじゃなくて、認めたくないけど、事実は、そのアイドルに本気で恋をしてしまった愚かすぎる浅はかで身のほど知らずの電波な痛々しいバカだから、苦しいところに飛びこんだ ア ホ ウ だから、)

うっうっと泣き出したわたしを、ジェリーはため息をつきながらしっかりと抱き締めてくれた。でもわたしは心の中でそんな彼女さえいなくなってほしいかもしないと微かに思ってしまったのです。
ほんとに死のうかという気持ちにさえなってくる。車に轢かれるのは簡単だから、飛び込んでしまえば少しでもあの人は振り向いてくれるかもしれない。心が痛んでくれるかもしれない。泣いてくれるかはわからないけど、記憶には今以上に残るはずだ。なんていう擬似希望さえ浮かぶわたしは、そろそろ本当に限界なのかもしれない。考えているだけで泣きそうになる。
せっかく大好きな親友のジェリーと話をしているっていうのに、死ぬことをチラッとでも考えてしまっただけじゃなく、彼女まで消えてくれれば自分に彼が振り向いてくれるかもしれないなんて恐ろしいことを一瞬でもよぎらせた自分は、とても情けなくてやるせなくて許されるものじゃなくて、ジェリーに土下座して謝りたかった。ごめんなさい、ごめんなさいジェリーロラム。冗談だって言いきれない心を持ってしまったわたしは、本物の恋する大馬鹿者です。